“美しい”は強い――本当に上達したい人のための卓球理論(上)


<この記事は、プレタポルテby 夜間飛行に掲載された同タイトルの記事を転載したものです>

 

――DVD『軸・リズム・姿勢で必ず上達する 究極の卓球理論ARP(アープ)』の刊行、おめでとうございます。今日はアープ理論の提唱者である山中教子さんに、アープ理論とは何か、今回のDVDはどういった人に向けられたものなのかということをお聞きしたいと思います。

 

山中 ARP理論(以下、アープ理論とする)というのは、軸(Axis)、リズム(Rhythm)、姿勢(Posture)の頭文字を取ったものです。私が卓球という競技に取り組み、人に伝えるなかで、いちばん無理なく、無駄なく、効率的に上達していくにはその3要素から卓球に取り組むとよいということに行き着き、それを理論としてまとめました。

 

今回のDVDは、そのエッセンスをぎゅっと濃縮して、たくさんの実践映像で解説しています。

 

 

「卓球」をさせてあげてください

――卓球に取り組む人にも、趣味レベルの人から、大会で勝っていこうという人まで、いろんな方がいます。アープ理論は、どういった人に役立つ理論なのでしょうか?

 

山中 今回のDVDをどういう人に見てほしいか。一言でいえば、「上達したい人」ということになると思います。「いまより卓球をうまくなりたい」と思っている人であれば、趣味でやっている人でも、トップ選手であっても、同じように参考にしていただけます。

 

私が、アープ理論を通して皆さんにお伝えしたいことは2つあるんです。ひとつは「卓球はすばらしい“スポーツ”なんですよ」ということ。もうひとつは「You Can:あなたにもできますよ」ということです。つまり、「卓球というすばらしいスポーツを、あなたもできるようになる」ということを伝えたいんです。

 

「卓球はすばらしいスポーツです」とか「卓球ができるようになる」と改めて言うのを、変に思われる方もいらっしゃるかもしれません。そんなの当たり前のことじゃないかと。もちろん、今のままでも、卓球を堪能している方もおられるでしょう。でもその一方で、ちゃんと「卓球」ができていない方、あるいは卓球のすばらしさを十分に楽しめていない方もおられるように感じるんです。

 

特に、大きな大会で勝っていこうという選手や、そういう選手を育てようとされている指導者の方々には、悩んでいる方が多いように思います。

 

たくさん練習したけど、勝てない。勝たせてあげたいと思っていろいろ教えるんだけど、負けてしまう。才能の問題なのか、努力の問題なのか、あるいは練習法の問題なのか……私は全国のたくさんの指導者の方にお会いしてきましたが、そういう悩みを相談されたときには、こう答えています。

 

「先生、卓球やらせてあげてください」と。

 

そうお伝えすると、先生方は「え?」と驚かれます。「卓球やらせてあげてくださいって、卓球やってるじゃないですか」って。でも、そうやって悩んでいる選手たちは、「卓球」に向き合えていないんです。「勝ちたい」とか「強くなりたい」「負けたくない」という気持ちばかりが先に立って、卓球そのものに取り組めていない。

 

そういうことはもしかすると、選手だけではなく、老若男女、あるいは卓球のレベルを問わず、あらゆるところで起きているかもしれません。

 

スポーツには試合というものがあります。試合に勝つことを目標にして、努力すること自体が悪いというわけでは、もちろんありません。でも、そればかりを考えているうちに、「卓球というスポーツの楽しさ」を忘れてしまう、ということがあるんです。

 

「卓球イコール試合」「試合以外の卓球なんて意味がない」という意識で取り組んでいる人は、ある程度まで上手になったり、試合で勝ったりすることはあっても、どこかの段階でどうしても壁に突き当たって、どうしようもなくなってしまうと私は思います。

 

卓球を原点から見直す

 

卓球というスポーツの原点には、「台を挟んで、ラケットでボールを打ち合う」ということがあります。卓球台が あって、ネットがあって、ボールがあって、ラケットがある。これはもう、動かせない条件ですよね。それから、スポーツとしての決まりごとがあります。 「コートにワンバウンドしたボールを打つ」とか「相手のコートに入れなければミス」といった、決まり事がある。それを守らなかったら、卓球になりません。

 

アープ理論の軸、リズム、姿勢の三要素は、そういう卓球というスポーツの原点に沿って、もっとも無理なく、無駄なく、効率的な運動はどういうものかということを追求したものなんです。姿勢を整え、ボールのバウンドのリズムに合わせ、軸に乗って運動する。そういう「卓球の運動そのもの」を磨いていくことが「卓球が上手になる」ということだと私は考えています。

 

しかし、多くの人が卓球というのは「覚えた技術を戦略に従って使うこと」だと考えているように見えます。フォアハンドやバックハンド、ドライブ、スマッシュといった技術を覚え、それらを組み合わせるのが卓球だと考えている。もちろん、それでもある程度までは勝てるかもしれませんが、必ず壁につきあたると思います。

 

なぜなら、卓球では毎回相手のボールは違うし、状況に合わせて、自分のプレーを臨機応変に変化し続けなければならないからです。そのためには、「台 を挟んでラケットでボールを打ち合う」という、卓球というスポーツの原点に立ち返って、その運動を磨いていくということから始めないといけないというの が、アープ理論の考え方です。

 

ですから、いまの技術別の練習やトレーニング法、あるいは戦略、戦術中心のやり方に疑問を持っている人や伸び悩んでいる人はぜひ一度、アープ理論を試していただければと思っています。

 

 

スポーツすることの美しさ

 

最初に、私が「卓球はすばらしい“スポーツ”なんですよ」という言い方をあえてしたのは、スポーツの美しさ、洗練された運動の中にある「美」を言い たいからです。卓球というスポーツは本来、すごく美しいスポーツなんだということを言いたいし、それを表現できる人が増えてほしい。

 

「スポーツの美」というのは、単に「見た目がきれいだね」ということではありません。それは無理なく、無駄なく、バランスの取れた運動を研ぎ澄まし、磨いていくことによって、はじめて生まれるものです。

 

例えばフィギュアスケートなどの採点競技では、そうした質の高い運動、パフォーマンスに対して高い評価が与えられますよね。卓球は採点競技ではあり ませんが、フィギュアスケートと同じように、「スポーツの美」を持っています。私は現役時代から、その「スポーツの美」を磨き、あるいは探し求めてきまし た。

 

もちろん、卓球には勝ち負けがあり、日本代表として何がなんでも勝たなくちゃいけないということもありました。でも、私が心の中で追求し続けたのは、そういう「無理なく、無駄なく、効率的な運動」であり、「速く、強く、美しい」運動だったんです。

 

 

フィギュアスケートと卓球はよく似ている

 

「速さ、強さ」と「美しさ」というのは、ほとんど一体といっていいぐらい、つながっています。一見力強く見えても、バランスが崩れた姿勢では本当の意味で「速く、強い」運動にはなりません。本当の「速さ、強さ」というのは、バランスの取れた、美しく滞りのない、連続的な運動からしか生まれないんです。

 

私はよく生徒さんに、「フィギュアスケートと卓球はよく似ていますよ」という話をします。例えばカウンタースマッシュは、フィギュアスケートのジャンプの運動とすごく近いと私は感じるんです。

 

スゥーッと滑ってきて、「ここしかない!」というタイミングでパンッ! と軸に乗る。それがピタッとはまることで、美しいジャンプになる。これは、 卓球でもまったく同じです。最高のタイミングで軸に乗ることによって、無理、無駄のない、最高のカウンタースマッシュが生まれるんです。

 

運動のクオリティをあげていくことで、速さ、強さ、美しさが一体となっていく。それはどんなスポーツでも、共通することではないかと思います。

 

現役時代、私はカウンタースマッシュが、楽しくて、大好きでした。ちょっとでも身体に力が入っていると、リズムが合わなかったり、軸が崩れてうまくいかない。でも、すべてがピタッと合うと、気持ちがスカッとして、これほどおもしろいものはないと思っていました。

 

例えば現役選手だと、石川佳純さんなどは、かなり上手にそういうパフォーマンスをされていると思います。先日のロンドンオリンピックでも何度か、い いボールを入れていましたね。もちろんメダルを取ることもすばらしいけれど、スポーツを観る人が「すごいな!」「すばらしいな!」と魅了されるのは、いつ の時代もそういう速く、強く、美しい運動だと思うんです。

 

 

マイヤ・プリセツカヤとの出会い

 

「スポーツの美」の世界を追求したいと思うようになったきっかけは、卓球を始めてしばらくして出会った、当時の世界チャンピオン・ルーマニア代表・ ロゼアヌ選手の卓球です。ロゼアヌ選手の美しく品格のあるパフォーマンスをみて、私は本当に感動しました。こんな素敵な卓球ができるんだ、私もやってみた いと思ったんですね。

※アンジェリカ・ロゼアヌ
1921-2006。1950~1955年にかけて、ルーマニア代表として世界卓球選手権女子シングルスを6連覇した伝説的名選手。

強さと美しさを兼ね備えたロゼアヌ選手
写真は( http://www.usctta.org/ )より

 

でも、一方では試合があり、目の前の相手に勝たなくてはいけない。もちろん、「速く、強く、美しい」パフォーマンスを追求することは、究極的には勝 つことにもつながるのですが、いま、目の前の相手に勝たなくてはいけないということになると、勝つということから逃げられない。

 

早さと強さと美しさを求める卓球の身体運動と、試合に勝つこと。その葛藤のなかで卓球に取り組んでいた私に素晴らしい出会いがありました。それは、 クラッシックバレエのマイヤ・プリセツカヤさんのパフォーマンスでした。マイヤ・プリセツカヤさんのバレエを目にして、人間がこれほど美しく、豊かに運動 で表現できるのかと本当に驚き、感動しました。

 

※マイヤ・プリセツカヤ
マイヤ・ミハイロヴナ・プリセツカヤ(1925~)。ロシアのバレエダンサー。しばしば現代最高のバレリーナと呼ばれ、世界中のバレリーナは、プリセツカヤ以後、技術の完成度でも演技力でも、より高度なものを要求されることになったといわれる。

マリヤ・プリセツカヤの白鳥の湖。そのパフォーマンスは山中教子氏の“卓球”の理想でもあった
RIA Novosti archive, image #855342, http://visualrian.ru/ru/site/gallery/#855342

 

マイヤ・プリセツカヤさんが表現している世界を、自分が取り組んでいる卓球でも表現してみたい。ただ、そうは思ってみたものの、当時の自分の身体運 動のレベルをマイヤ・プリセツカヤさんのバレエと比較すると、大げさではなく「私は幼稚園児ぐらいだな」と思ったんです。それくらい、とんでもない差があ りました。

 

もちろん、卓球には試合、勝ち負けということがありますから、その面でみれば、当時の私の卓球は幼稚園児ではなく、もうちょっと力があったと思います(笑)。ただ、純粋な身体運動表現として見たとき、そのレベル、スケールには、ものすごく大きな差がありました。

 

そう思ったとき、正直なところがっくりしました。今まで何をやってきたのかと……。

 

マイヤ・プリセツカヤさんのように表現したい、でも今からやっても無理だろう……。本当に悩みましたが、最終的には、「せっかく自分は卓球というスポーツでここまでやってきたのだから、やれるとこまで自分なりに理想を追い求めてみよう」と決心した。

 

不思議なことにそれ以後、やることなすことがすべてレベルアップして、私は急成長することができました。その結果、世界でも成績を残すことができた。いま振り返るとそれは、卓球の中にスポーツとしての美を求めることを貫いた結果だと思っています。

 

そして、アープ理論というのは、そのとき私が、マリヤ・プリセツカヤさんのバレエのイメージのもと「速く、強く、美しい卓球をしよう」と決心したことが出発点になっているんです。

 

軸、リズム、姿勢の三要素にまとめる

 

そのように自分なりに卓球を追求し、現役引退後はそれを伝えていく活動をするなかで、あるとき、「私の理想とする卓球は、リズム、姿勢、軸の三要素でまとめることができるんじゃないか」というところに行き着きました。

 

もちろん、卓球にはほかにもたくさんの要素があります。その人のレベルや、求めるものによって、他の要素を考えなくてはならなくなることもあるで しょう。でも、どんな人にとっても、この三要素は卓球というスポーツを上達していくうえで、普遍的な基準となるものだと思ったんです。

 

自分の運動、卓球を次のレベルに上げていくときに、「勝ちたい」とか「強くなりたい」という、自分の内側にある思いだけではどうしても限界に突き当 たります。“自分発”の思いだけでは、どうしても今やっていることの延長線上でしか力を伸ばせないし、新しい世界に飛躍することができなくなってくる。

 

そのときに、軸・リズム・姿勢という普遍的なものを基準にすることが、壁を乗り越えていくうえで、力になるということがわかってきたんですね。

 

私が「you can:あなたにもできる」という言葉で言いたいのはそのことです。軸・リズム・姿勢という三要素を磨いていくことによって、「自分にはできないだろうな」という固定観念を乗り越え、どんどん新しい世界を発見していくことができるようになる。

 

そういう、自分の限界を越えていくチャレンジというのは、日本代表として世界を舞台に戦う人にとっても、週に1回の練習で、自分のできる範囲で上達 したいという人にとっても、同じです。だからこそ、アープ理論は「上達したい」という思いを持つ人であれば、誰にとっても役立つんです。

 

無理のない、理にかなった運動というのは、あらゆるものの基本です。運動が理にかなったものであれば、その先にようやく、その人の個性や追求したい世界が出てくる。願いどおりの心の表現ができる可能性が出てくるんです。

続く→後編はプレタポルテby 夜間飛行に掲載中!)

 

 

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