“美しい”は強い――本当に上達したい人のための卓球理論(下)


<この記事は、プレタポルテby 夜間飛行に掲載された同タイトルの記事を転載したものです>

 

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“美しい”は強い――本当に上達したい人のための卓球理論(上)

 

マイヤ・プリセツカヤのすごさ

 

私はマイヤ・プリセツカヤさんのパフォーマンスを見て、卓球の中で身体運動を追求していこうと決心しましたが、ではマイヤ・プリセツカヤさんの何がすごかったのか。もちろん、最終的に表現されたものが美しいということもあるんですが、何より「運動のやわらかさ」に私は感動したんだと思います。

 

身体の使い方が理にかなっているから余裕がある。余裕があるからやわらかさもパワーもあって、自由自在に、豊かな表現を行うことができる。

 

身体の使い方が理にかなっていないと、どうしても、どこかの部分が緊張して運動がかたくなります。それでは自由に表現することはできません。心が緊張すれば、身体も緊張する。身体が緊張したら、心も緊張する。心の中で思っていることは、必ず、身体にあらわれるんです。

 

卓球でもチャンスボールが来て「打つぞ!」と心が緊張したら、必ず身体もかたくなりますよね。逆に「ボールをよくみて、ちゃんと丁寧に打とう」と思えば、身体も丁寧に動く。身体を見れば、その人の心がどういう状態にあるかがわかります。

 

だから私はよく笑っちゃうんですよ。インストラクターが模範演技をやるときに「ああ、心が硬くなってるなあ」と思ったら、実際にそのとおりにミスしちゃうから(笑)。

 

プレーは嘘をつけません。運動神経がいいからといって、自分の心にない運動ができるかといえば、そんなことはないんですよね。

 

中国の前チャンピオン・張怡寧さんは、卓球以外の競技をやっても超一流になれそうなスーパーアスリートですが、だからといって、どんな卓球でもできるかといったら、おそらくそんなことはないでしょう。彼女が、背筋をきりっと伸ばして、美しい卓球をされるのは、彼女の心のなかにそういう卓球があるからです。例えば王楠さんのようなやわらかな卓球をやれといわれても、たぶん難しいだろうと思います。

 

人間は、自分がやりたいこと、自分の心のなかにあることしか表現できない。心がそれを望むようなことしか、表現できないんですね。

 

張怡寧(ちょういねい、Zhang Yining)
中国代表の卓球元世界チャンピオン。美しく無駄のない両ハンド攻撃で女子王座の座に君臨した。2004年アテネ五輪女子シングルス・ダブルス、2008年北京オリンピック女子シングルス・団体金メダル。2005年第48回世界卓球選手権女子シングルス・ダブルス優勝。2003年1月から2009年11月までほぼ世界ランキング1位を維持し続けた。

 

 

心で思ったことを自由に表現するための理論

 

人はそれぞれ、表現したい世界を持っているのだから、それを精一杯表現すればいい。問題は、それを自由に表現することができない、足かせがかかってしまうことです。スポーツの場合でいえば、運動が理にかなったものでなくなってしまえば、自由に表現ができなくなってしまう。そういう足かせは、心にも、身体にも、かかってしまうことがあります。

 

例えば「卓球とはこういうものなんだ!」と、腰を曲げて、前かがみになって、腕の筋肉で振るといったイメージを繰り返し刷り込んでしまえば、その形でプレーすることはできても、そこから離れて、自由に表現することができなくなってしまうでしょう。これは心と身体、どちらにも足かせがかかった状態です。

 

アープ理論は、理にかなった運動を行うことによって、「心で思ったことをそのまま自由に表現できるようにするための理論」ということができます。姿勢を整え、ボールのリズムに合わせて軸に乗る。そうすれば、自然と心にゆとりをもって、ボールに向き合うことができるようになる。

 

一部だけでも活用してほしい

 

アープ理論で、卓球の身体運動を軸、リズム、姿勢の三要素で整理すれば、卓球は「姿勢は1つ、打法は2つ」とシンプルに捉えることができるようになります。これは、多くの人にとって、まったく違った卓球の捉え方になります。だからアープ理論のことを「卓球の意識革命」といってくれる人もいるんです。私にとっては「普通の捉え方」なんですが(笑)。

 

ただ、そういうふうに「これまでとまったく違うものですよ」という言い方をすると、興味を持ってくれる人がおられる一方で、「なんだか面倒くさそうだな」「いまさら自分のやり方を変えたくない」と感じる人もいらっしゃると思うんですね。

 

実は私は、このDVDを観てくれた人が、「一から十までアープ理論でやってほしい」というふうには、思っていないんです。DVDを見て例えば、「ああ、自分の卓球にはリズムが足りなかった」と感じたら、R、「リズム」の要素だけでも取り入れてもらったらいい。姿勢の所だけでも参考になればいいと思っているんです。

 

三要素をはじめ、アープ理論の方法は、一部分だけ取り入れても、十分に役立つと思います。特にリズムの要素については、どんな卓球のやり方をしている人だって、役立つし、すぐに取り入れることができるでしょう。

 

試合のとき、「相手のボールにタイミングが合わないこと」で困った経験のない人はいないですし、「タイミングを合わせましょう」と言われても、どうしていいかわからない人が多い。アープ理論では、相手のボールがこちらのコートにバウンドしたところに、すっと自分の運動のリズムを合わせていく方法を、「リズム」という観点から丁寧に説明しています。

 

もちろん、「相手のボールに自分の運動のリズムを合わせる」ということを、卓球をある程度やっている人は、知らないうちに実践しています。でも、それがどういうことなのかをちゃんと理解できずにやっている人は、リズムが崩れたときに戻すことができないんですね。

 

あるいは、試合では相手のリズムを外すようなプレーが必要になるかもしれませんが、そういう場合でも、相手のボールのリズム、自分の運動のリズムということがしっかりと理解できていなければ、うまくいかないでしょう。

 

3要素は互いに関係している

 

そうやって、リズムの課題に取り組んでいるうちに、もしかすると「ああ、リズムをきちんと合わせるには、姿勢も整えたほうがいいな」と気づく人も出てくるかもしれません。姿勢がきちっとしていないと、なかなかリズムを合わせることは難しいんですね。

 

特に、1回打つだけならそうでもないですが、連打は姿勢が崩れていると難しい。腰を曲げたり、姿勢が傾いていると連打できない。連打するためには、自然体で立つ必要があります

 

あるいは、「ああ、筋力じゃなくて、地面反力を使うのか」ということだけ取り入れてもいいかもしれません。

 

そんなふうに、アープ理論に出てくるいろんな考え方を、その人が気になるところだけでも使ってもらったらいいと思うんです。自分の卓球を見失ったとき、方向性がわからなくなったときのヒントにしてもらったらいい。

 

もちろん、「これを機会に自分の卓球を一から見直してみよう」という方は、DVDを観たり、私たちが行っている講習会に来て、取り組んでいただければいいと思います。でもそれはちょっとハードルが高いと感じる人も多いと思うんですね。そういう人は、まず部分的に取り入れてもいいんですよ、ということです。

 

私は、「理論」を難しくとらえないでそういうところから入ってもらいたいと思っているんです。こうして発表させていただくからには、全体にきちんと整合性があって、卓球のすべてを説明するものに仕上げなくてはいけません。しかし、それは理論を作る側の仕事であって、それを学ぶ人、使う人が、すべてを理解していなくちゃ使ってはいけない、というのはおかしいですよね。

 

もちろん、私自身は、アープ理論をしっかり勉強して取り組んでいただければ、どこまでもその人の可能性を伸ばしてけると確信していますが。

 

アープ理論の他領域への展開

 

私は卓球ってすばらしいスポーツだと思っています。サービス以外は必ず相手の打ったボールを返球するということですから、自分勝手に打つことはできない。だからそこには、リズムがあって、相手とのコミュニケーションが生まれる。音の行き来は音楽でもあり、音に合わせて打つ運動はダンスのようでもあります。

 

卓球は楽しくて、美しいものである。そういう意味からみても、卓球は100年先、200年先にも受け継いでいける可能性を持つスポーツだと思います。

 

スポーツとは何か。その根本にあるのは「身体」を動かす、ということですよね。試合ということになると、頭脳の戦いでもあるし、それはそれでおもしろいんですが、試合以前に身体を使う、スポーツするということがあり、そのベースには身体運動がある。アープ理論は、卓球のベースにあるスポーツ、スポーツのベースにある身体運動にスポットをあてた理論です。

 

そういう意味で、もし卓球以外のさまざまな分野の方がアープ理論を参考にしたり、取り入れることがあれば、すばらしいなと思っています。アープ理論は卓球の身体運動の理論ですから、卓球以外にも応用していただく可能性はきっとあるでしょう。

 

例えば陸上競技やスケート、サッカーなど、さまざまなスポーツの方が「卓球でこういうやり方が成り立つのであれば、自分のやっている競技ならどうだろう」と展開してもらってもいい。あるいはダンスでも、歌でも、書道でも、身体を使った動作を伴うものには、すべて共通する要素があると私は思っています。

 

そうやって、それぞれの分野の人が、自然体で無理なく、理にかなった動き方から取り組みを始めるということが、ひとつの文化になっていけばというのが私の願いです。

 

私自身も「卓球だけ」と思われるのは嫌なんです。でも、だからといって卓球の山中が「あなたの分野でも使えますよ! どうですか?」なんて自分から勧めたらはおかしいでしょう?(笑) ですから、どうぞご自由に使ってください、と思っています。

 

ちょっと話が大きくなってしまいましたが、本当によいDVDができたと思いますので、卓球の世界に限らず、いろんな人がアープに出会ってくれるといいですね。いろんな分野の才能ある人がアープと出会うことで、人の輪が生まれて、スポーツっていいよね、人間っていいよね、と思えるようになったら、本当に理想です。

 

(2012.11.22談)

 

 

 

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