リズムの速さと丁寧さの両立–「1から10」で卓球を整理する


山中教子の集中レッスン(2015年9月27日)まとめ

今日のテーマは<「リズムの速さ」と「丁寧さ」を両立させる>でした。以下、山中教子先生のレッスン内容をまとめます。(スタッフS)

 

 

■時代にはリズムがある

 

時代には特有のリズムがあります。時代が変われば、リズムも変わります。1950年代のラリーのリズムが「ターン、タッタン、ターン、タッタン」だとすれば、それが1960年代から70年代、中国の前陣速攻スタイルが台頭してくると、「タン、タン、タン、タン」と、ラリーのリズムがワンテンポ速くなりました。そして1990年以降、「タッタッタッタッ」という非常に速いリズムのラリーが当たり前となりました。

 

■卓球は「一期一会」のスポーツ

 

その一方で、卓球というスポーツの本質に「一期一会」があります。卓球では「全く同じ」ボールを打つことは二度とありません。相手の打ったボールのスピードやコース、スピンの方向や量は、一球一球異なります。たとえフォアクロスのワンコースでラリーをしても、ボールの浅い深い、左右への小さなずれ、高低の違いなど、飛んでくるボールは毎回異なっています。

 

一球一球異なるボールを正確に見極めて、ボールに対して自分の身体を丁寧に合わせていく。このことから、アープ卓球カレッジでは<卓球は「一期一会」のスポーツだ>と言っています。このような捉え方に基づいて練習することによって、フォームや形にあてはめた不自由なプレースタイルではなく、ボールに合わせた臨機応変な卓球が身につきます。そしてそれは、ゲームに直結する、<本格的な卓球>につながっているのです。

 

■「リズムの速さ」と「丁寧さ」の両立を目指す

 

現代の卓球では、年々速くなっていく「リズムの速さ」と、「一期一会」という言葉に表されるような「一球一球に対する丁寧さ」を両立させることが必要です。

 

「どちらか一方だけ」では、今の時代の卓球にはなりません。例えば「リズムの速さ」だけでは、運動は速くなり、対応ができるようになっても、卓球のスケールや魅力に欠け、最後の最後、勝負所で良いプレーをすることができなくなってしまうでしょう。一方、「丁寧さ」だけでは、現代卓球のラリーの速さについていくことができなくなってしまうでしょう。

 

「丁寧さ」というのは卓球の本質ですから、捨てることはできませんが、中には「私は昔の卓球でいいんです。今の時代の速い卓球は嫌なんです」という人もおられるかもしれません。でも、たとえそれを自分のスタイルとするとしても、卓球界全体の流れが「より速い」方向に進んでいるという事実から目を背けてはいけません。「リズムの速さ」と「丁寧さ」は一見矛盾した要素のように感じますが、アープ理論によって紐解いていけば、それは矛盾なく、自分のものにしていけるでしょう。

 

■「1から10」の時間で紐解く

 

「リズムの速さ」と「丁寧さ」の両立を説明するには、「1から10」の時間で卓球のラリーの在り方を紐解いていくのが良い方法です。

 

相手がボールを打った瞬間を、便宜上「ゼロ」としましょう。「1、2、3」の時間は、「準(順)備動作」の時間です。この時間では、相手の打ったボールを正確に見極め、最も良い打球点に対して自分の身体を運ぶための時間です。次の「4、5」の時間は「打球動作」の時間です。つまり、打球動作というのは、10のうちの「2」だけだということですね。このわずかな時間で「最高の一振り」で打球できるよう、他の時間を上手に使う必要があります。

「6、7、8、9、10」の時間は、打球動作の「締めくくり」の時間であり、同時に「相手が打つ時間」となります。相手が打球したあとは再び「1」に戻ります。

 

「1から10」の時間の長さは当然ながら、相手の打ったボールや自分の打つボールのスピードに応じて一球一球変化します。また1から10までの時間間隔も均等ではありません。相手の打ったボールがゆっくりであれば「1、2、3」の間隔は長くなりますし、自分が速いボールを打てば、「6から10」のテンポは非常に速くなるでしょう。このように一球一球時間の長さや間隔は変化するのですが、どのような時にも、その状況に合わせた「1から10」の動作があります。これをむやみに省略しないことが「丁寧さ」につながる、というわけです。

 

この「1から10」の間に行う身体運動は、端的に言えば「軸の移動」です。準備動作では、打球に向けて身体の左右にある軸のうち片方の軸をしっかりと立てます(これをアープでは「重心移動」と呼びます)。

一方、次の「4、5」の打球動作では、片方に立てた軸を反対側の軸に移動させながら”一振り”で打球します(これをアープでは「軸移動」と呼びます。先の「重心移動」との違いに注意が必要です)。

続く「6、7、8、9、10」の締めくくりの時間では、移動させた側の軸にしっかりと乗りながら、相手の打球を見ます。このようにして、身体の左右に作る軸を移動させる動作が、卓球のラリー中に行う身体動作なのです。

 

 

■時間に限りがあることを認識する

 

「1から10」の考え方がわかると、「リズムの速さ」と「丁寧さ」を実現するポイントを理解できます。

 

「リズムの速さ」を生み出すには、「時間が限られている」ことを認識することが必要です。リズムの速い卓球では、「1から10」の時間も短くなります。さらに、自分が実際に打球できる時間は「4、5」の時間しかありません。この短い時間の間に、自分の打球動作を行うということを理解していれば、どれだけ速いリズムであっても自分の動作が遅れてしまうことはなくなります。

 

逆に言えば、打球動作が遅れてしまう原因は、「時間が限られている」という認識を持っていないことにあるのです。自分が打ったボールや相手の打ったボール、それによって決まる「1から10の時間」とはまったく無関係に、自分勝手に「こうやって打つぞ!」と動いてしまっているのです。

 

どれだけ合理的で、パワフルで、スピードのある運動をしたとしても、一球ごとに変わっていく「限られた時間」にピタッと運動が合っていなければ、ボールを打球することはできません。与えられた時間が長ければ長いなりに、短ければ短いなりの運動を行う必要があるのです。

 

一方、「丁寧さ」のポイントは、短く限られた時間の中でも、「1から3」の準備動作と「6から10」の締めくくりの動作を、丁寧に行う、ということにあります。リズムが速く、時間に余裕がないからといって、「1から3」を省略して突然ボールを打球しようとしても、相手の打ったボールが正しく認識できなければ良い打球はできません。また相手のボールへの意識が強くなりすぎて、「6から10」の締めくくり動作を忘れて、ボールが来る前に次の打球動作に移ってしまうと、当然のことながら、相手のボールに合わせた運動ができなくなってしまいます。

 

時間が短ければ短いなりに、相手の打ったボールを判断する時間を持つ。打球後には軸に乗って打球動作を締めくくり、相手の時間を感じる。これが、リズムの速いラリーの中で、「丁寧さ」を生み出す秘訣なのです。

 

 

■ルーティンを決めると自分を保つことができる

 

2015年のラグビー世界選手権で、日本が南アフリカを破ったというニュースが話題になりました。その中でも、五郎丸選手がキックの前に行う「ルーティン」は興味深いものでした。五郎丸選手はキックを行う前に、毎回決まった動作を決まった手順で行います。このような「決まった動作」のことを、「ルーティン」と呼びます。

 

五郎丸選手はキック前のルーティンを、練習のときから試合のときまで、一回も欠かすことなく行っているというのです。このルーティンを行うことによって、「試合の本番でも、練習のときと同じようにキックができる」のだそうです。

 

ルーティンの例としては、野球のイチロー選手のパフォーマンスも有名です。イチロー選手の場合には、バッターボックスに入るときに行うパフォーマンスもそうですが、日常生活の様々な場面にルーティンを取り入れているそうです。それによって、自分の状態の良し悪しやプレー環境に関係なく、毎回同じ心境でプレーができるのです。

 

このように、ルーティンを行うことによって、いつでも同じように落ちついた心を持ってプレーができる。アープではこのことを、「自分軸」を持つと表現しています。今回のテーマである「1から10」の動作というのは、自分軸を作ると同時に、相手をしっかりと認識するという、卓球に欠かせないルーティンにつながっています。

 

<この続きは実際のレッスンで!>

 

 

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